「失踪社長の奇怪な三日間」(「別冊週刊漫画」 昭和37年)
今回も埋め草と思しい記事ながら、類例が少ない珍談を。「プッツリ消息を断ったポンプ屋の社長が、ひょっこり姿を現わした時には、千里眼ともいうべき霊能力を身につけていた。『オレはいったい、何をしてたんだろう?』自分自身にも記憶のない、奇怪な三日間……」と柱の惹句にある、「失踪社長の奇怪な三日間 突如会得した不思議な霊能力」(「別冊週刊漫画」 昭和37年3月15日 39~41頁 写真2点 芳文社)。
「農村向けポンプを製造販売している社員二十名ほどの」、「千葉県佐原に…本社」「東京支社」がある会社「社長…が突如、行方不明になってしまったのは、昨年十二月の中旬、年末を控え、忙しいさなかだった。『ご機嫌でスピードを出しすぎ、交通事故でも起こしたんじゃないか?』トヨペット61年型に乗ったままの行方不明なので、そんな心配も出てきた。もちろん、心あたりは、すべて連絡をとってみた。行きそうな料理屋、バー、またはとくい」先などは、社員が手わけして、飛びまわってみた。三日目の夕方だった。東京支社の前に、車がブレーキをきしませて止まった。『よう、…、どうだい、仕事の方は』いつもの…社長の声だ。仕事も手につかずにいた」社員「は、飛び上がって出迎えた。ところが、そこには、ボロボロの服に、無精ヒゲの…、キョトンとした顔で立っていた。『社長、三日間どこへ行ってきたんです? いえ、どこにいたのです!』『三日? 私は佐原から、今、出てきたばかりだよ。どこにも寄りはやしない』佐原に念のため電話を入れると、とんでもない、今の今まで大騒ぎしていたところだ、ということ。…、交通事故で、社長が記憶を喪失したと考えてみた。念のため車を点検すると、どこをどう走ったか、ドロまみれにはなっているが、どこも異状はない。『三日間、オレはいったいなにをしていたんだろう。どうしてもわからんな』…、なにか右のポケットからとり出した。…。それは小判だった。慶長小判六枚。どこで、…手に入れたかは、…なにも記憶がなかった。」
「"社長のナゾの失踪事件"は、忙しさにまぎれて、みなが忘れていった。…、その」社長「が、妙なことをいい出した。『…、最近、人の考えていることや、その人の運命が、じっと目をつぶっていると、みんなわかってしまうんだ。誰だか知らんが、オレの頭の中に、もうひとり誰かが出て来て、知らせてくれる』…。ある日、…客と対座していた。と、急に頭の中から奇妙な声がしてきた。『この人は、明日、大きな取り引きに成功する。しかし今は無一文。おまえに金を借りに来ている。…。三百万円欲しがっている……』…、なにも聞かずに、三百万円の小切手をさしだした。『…、私が考えていることが、何故、わかっちゃうんです?』さあ、私にもわかんないんです。誰かが私の頭ん中で、私に告げてくれるんですよ。…、正直、無意識のうちでした。』」「一日おいて」その人物「は、現金を耳をそろえて返済に来た。」
「千里眼の秘術を持っているという噂が、誰ともなく広まった。そのなかに、盗難にあった、命から二番めに大切な宝石のありかを……という相談があった。」「目をつぶった。しかし、今日はなんの"お告げ"もない。…『そうだ!』手に小判を持っていない。…、小判を…、握りしめた。やがて、…、誰かとボソボソと話し出した。『…、上野か浅草? 浅草の観音様の近くを探せ?』その三日後…。…盗まれた宝石が、浅草の観音様のすぐ近くの、古物屋のウインドウに出ていたのを、当人が見つけてきたのだ。」
「花街でこの種の噂が広まるのは早い。たちまち大評判になってしまった。…。酔ったまぎれに、キャバレー、バーの女性たちの過去…を当て…、百人が百人、『うす気味悪いぐらい当たってる』といい出すほど。中でも、…小声で、『君、小学生になる男の子がいるんだろ』…。『…、どうしてわかるの。…、里子に出したらどこへ行ったのか、行方不明になったんです』彼女は、…大声で泣き出してしまった。『元気だそうだ、安心しなさい。信州に入るってさ』」
「…当の」社長は「何人もの神経科の医師にみてもらったりしていたが、『…、どこも異常ないっていうんです』…過去にも、宗教とか心霊術のたぐいに、興味を持ったことは一度もなかった。てんから、そんなことは…"ありえないこと"という考えを持っているのだ。…。…自分が、妙な"霊能力"を持ってしまったということが、迷わくでたまらない…。」それでも、「『頭の中に出てくる"第三者"ってのが、私の母親らしんですね。もちろん、母はかなり前に死んでいます。』『こんな不思議なことって! いったい、どういう作用なんですかね。…、この質問には、"霊魂"はぜったいに答えてくれないんですよ』」
| 固定リンク